普通日記

働くトリネガ、絵描き修行中につき

共依存かもしれないと腹をくくる

子供のころから父親とは仲が悪かった。何かにつけて対立して喧嘩になった。父親が死んでから気が付いた。似ていたのだ。似た者同士の反発だった。今となっては、まぁそんなに悪い関係ではなかったような気がする。当時は私も若かった、というより幼かったので全力でバトルしていた。父親も子供相手に手加減できないバカな大人だった。まったくもって似た者同士。

私の奥底にある負の塊は、表面的な対立のインパクトが強かった父親との関係にあると思っていた。10代の頃から感じていた何か分からないけれど支配されている窮屈さ、焦燥、屈折、卑屈、卑下。20代では、とにかく得体の知れない何かから逃げていた。30代で諦めたふりをした。何でもないのだと、うまく立ち回っていると思い込むことにした。40代で乳がんになって、自分の寿命や生き方を考えるようになって、奥に閉じ込めておいた色々な感情が泡立つように表に出てきてしまった。

自分と母親との関係は、共依存だ。

一度、その大きな負の塊を認知してしまった私は、もう戻れなくなった。母親にだけ問題があるのではない。共依存の片割れであったのは紛れもなく自分なのだ。精神科医に診てもらったわけではないので、実際のところ共依存じゃないのかもしれないけれど、そんなのはどうでもいい。得体の知れない何かを抱えたままでは生きずらい。名前をつけて輪郭をはっきりさせる。実態を与えて向き合う対象を明確にする。そして落とす。京極堂の憑き物落としと同じ道理だ。

この世には、不思議なことなど何もないのだよ、関口君。

とはいえ、京極堂には頼れないので自分でどうにかするんだけど。

この大きなストレスから逃れる一番の方法は、物理的に離れること。別居すりゃ解決。なんだけどねー、なんつっても安月給の事務員。出世なんぞ望めないペーペー社員。しかも貯金なんか使っちゃったもんねー。今は金銭的にちょっと・・・。

ってことで、まずは家庭内別居作戦ファーストステージ。母親は決まった時間に決まった事をする。食事も風呂も就寝も時間が決まっている。そして台所は彼女の城だ。すべて置き場所が決まっている。食器の重ね方にもルールがある。決して私や妹が入り込む余地を与えなかった。台所は我が家の中では難攻不落なデンジャラスゾーン。侵攻するのはレッドクリフ並の難易度なのだが、無謀にもまずここを落とすことにした。なんてね、御託を並べてみたけれど、平たく言ったら自分のごはんを自分で作るだけ。四十路も半ばの独身女が今さら自炊宣言ってのもヤバイっちゃヤバイ話だけど。いや、もう、お恥ずかしい。食材も財布を別にする。もともと家賃並みの金額を家に入れている。それに上乗せして食費となると、それなりに厳しいのだが、四の五の言っていられない。以前と同じ生活をしていたらがんになっちゃうのだ。

母は私の提案に対して「理解ある良い母親」である為に絶対に反論も抵抗もしない。ただし愚痴は言う。「あなたの為を思ってガマンしてあげていることを分かってほしい」「あなたの為に仕方なく受け入れてあげる母親の思いやりを理解してほしい」というのが母の先手だ。そしてストレスで体調が悪い、鬱になったかも、などとジワジワと敵に(つまり私に)罪悪感を抱かせ、もしくは面倒くさがらせる。最終的には素直で従順な子供の世話を甲斐甲斐しくする理想的な母親カーストのトップに君臨する。今まではそれに付き合ってきた。強烈な負のオーラを発する愚痴で長期戦に持ち込まれると完全にこちらが不利だったのだ。

これに抗う唯一の手立ては「鈍感」になること。スルーしちゃえばいい。負のオーラで真っ向勝負しても年季が違うから勝ち目はないし、なんか呪詛っぽくて身体に悪そうだ。京極堂が人を呪うと返ってくる呪いは倍返し!って言ってたし。いい年して母親の理想どおりの親子関係を装っていい子ぶるよりも、鈍感バカに徹するほうが気楽。そのうちお互いが(精神的に)独立できたらいい。得意かもなぁ、バカになるの。なんといっても私は父親に似ているのだ。

 

京極堂 京極夏彦百鬼夜行シリーズ主人公。妖怪のうんちく話は鬼もびっくりするくらいのボリュームだが、本物の妖怪はまったく出てこないという・・・。シリーズ最新刊、早く出してくれよぅ。